宮城県東松島高等学校 理科特別授業

 2014年10月7日、城県の東松島高校にて理科授業をさせていただきました。東松島

高校は宮城県初の定時制・単位制の高校で、学年も校則もなく生徒さんが自らの選択

で勉強し卒業していくユニークな学校です。震災時には避難所と遺体安置所の両方と

して、地元の方々の生死を支えた場所だそうです。

 STA初の夜間授業で、どんな展開になるのか講師としてもドキドキでした。教室に

入ってくる生徒さんの中には「あんまり難しいことはどうせわからないし~」という

声があったり、授業を始めても最初はちょっと退屈気味の生徒さんもいたりしまし

そんな中で私が伝え続けたのは「自然や科学の美しさはどんな人にも平等」という

ことでした。たとえ理科が好きでなくても、科学の美しさは体験できる-私自身の経

験を踏まえてお話しをさせていただきました。

 もう一つ私からお伝えしたことは、最先端の研究開発も結構”地味”ということでし

た。リチウムイオン二次電池の正極(コバルト酸リチウム)と負極(グラファイト)

を見せたのですが、どちらも黒い粉で区別がつかないという生徒さんがほとんどでし

た。でもこれらの電極材料を研究開発している人たちにとっては、これらは間違えよ

うのないくらい違う粉で、それぞれの中の細かい組成や特性を追求して電池の性能を

向上させているのです。どんな仕事もそうだと思いますが、華やかな面の裏には地道

な努力があるものだということを生徒さんたちに感じていただけたらと願っています


 そして実験。金属板と電解液を使って電池をつくる実験なのですが、最初に配られ

た組み合わせでは電圧がゼロ、電子オルゴールも全く鳴りません。ここから生徒さん

の工夫でメロディーを鳴らせる電池をつくれるか、挑戦していただきました。いろい

ろな材料を試していくと、金属板の組み合わせによって電圧が変わることを見つけま

した。1回ごとに記録を取り、より大きな電圧を出せる組み合わせを探していきます。

電圧が十分出ても、メロディーがかすかにしか流れません。さっきまで退屈気味だっ

た生徒さんが、電子オルゴールを耳に当てて一心に確認していました。電解液を替え

てみます。一番人気の白ワインがいいのか、臭いはきついけど食酢がいいのか、小走

りに材料を替えに行きます。メロディーが鳴った瞬間は、笑顔になる生徒さん、納得

の表情の生徒さん、ほっとする生徒さん、それぞれの表情を見せてくれました。

 ここで私から提案をしてみました。「メロディーがあまりちゃんと鳴らないな~と

いう人は、周りの人と電池をつないでみましょう。」突然、大きな音でメロディーが

流れ、歓声が上がりました。人と協力することによって、自分一人ではできないこと

が実現できる。実験をとおしてそのことを体感していただけたかと思います。

 通常、電池の実験は決められた材料の組み合わせで動作を確認するだけのものなの

ですが、私たちのプログラムでは生徒さん自身に組み合わせを探索してもらうことに

しています。最初はあえて電圧がゼロのところからスタートします。どうしていいか

わからず固まってしまう生徒さんもいるのですが、これは意地悪でやっている訳では

なく、自らの行動で状況を打開してもらいたいとの願いを込めています。震災の影響

を始め、生徒さんたちはそれぞれの環境に置かれています。でも自らの行動で、少し

ずつでも状況を変えていくことができるはずです。特に科学の実験では、得意な人で

も苦手な人でも平等に、やったとおりの結果が出ます。自らの考えで一歩を踏み出し

て欲しい、そんなことを勝手に思いながら生徒さんの試行錯誤を見ていました。以前

大学の先生が「高度な実験ですね」とおっしゃって下さいましたが、材料を変えなが

ら特性を確認していくこの実験の過程は最先端の材料研究と全く同じです。いつのま

にか材料研究をしている生徒さんを見ながら、彼らの可能性の大きさを感じました。


最初は緊張していた生徒さんたちも、最後は時の経つのも忘れて熱心に取り組んでく

れました。終了後に生徒さんから

「いろいろな組み合わせを試してみて、最終的にメロディを鳴らすことができました。」

「とても楽しかった!電池を増やしていくと電圧も音楽も大きくなった!」

「周りの人と協力し、ビーカーを借りてつなげるということがいつもないことだった

ので楽しかったです。」

といった感想文をいただきましたが、それ以上に実験の途中から輝きだした生徒さん

たちの表情が印象的な授業でした(写真でお見せできず残念です)。これからも、生

徒さんが科学に興味を持つだけでなく自らの一歩を踏み出すきっかけになるような貢

献をしていければと思います。(E.E.)